ABBY MUSIC STUDIO
岸和田、南海本線 和泉大宮駅から徒歩5分程に位置する2階建て24時間営業のスタジオ。狭く浅い泉州地区でバンドを組み、練習するならここが1番安くて集まりやすかった。Hue'sで言うなら俺/みずやん/根來はそれぞれのバンドでここによくいたし、FATE BOXのカズ/よこせはもっといたと思う。blondyは高野/だいちもずーっとここにいた。きっとえびちゃんもいたと思う。煙草臭くて、トイレの便座は半分なくて、予約した時間に行っても鍵がかかっていて誰もいなかったり、ゆくゆくは完全無人スタジオとなり料金は封筒に入れて名前を書きポストに投函しておくというスタイルにもなっていた。こうやって書いてみるとクソなハズレスタジオかもしれないけれど、10数年前の俺たちにはとっては非常に大事な場所だった。いけば誰かいるし、就職進学生活結婚人生どれもなくて、明日なんかどうでもよくて、酒も煙草も要らなくて、ただ友達とデカい音をひたすらに出し続けることだけが異常なまでに楽しかった。青春よりも1つ前の場所。1995年の代が高校を卒業してからは真壁さんという人がこのスタジオにいて、カズや高野と大地はずっと真壁さんと話す為だけにもよく行き続けていたと思うしほぼ住んでいたと記憶している。the eciaが一瞬あったおかげで俺も真壁さんとは何度か顔を合わしたことがある。言語化するのが難しいのだが、人や音楽や芸術に関する俺たちにとって全てのようなことを落ち着いたトーンでひたすら話してくれる教授のような人。間違いなく何人かの瞬間的全ての存在の人。
2ヶ月前くらいに尾崎の友達と深夜ドライブがてら見に行ってみた。今のアビーは更に変わり果てていてレゲエやヒップホップの装飾が施されており、そういった人たちで経営も回しているように見受けられて少し寂しかった。相変わらず人気はなかったので恐る恐る一階Ast前の扉を開いてみたらあの頃と何一つ変わらず、煙草とカビとなんとも言えない古い機材特有の匂いが脳まで一瞬で飛んできた。皆が平等に青すぎた春はあそこにずっといたよ。
Abby Triad
FATE BOXとblondyとは何度も言ってるが本当に長い付き合いで、2019年ぐらいは3組同じイベントになり頻繁に顔を合わせていた。我々の関係性や鳴らしている音、酒の飲み方をよく知ってくれているいくつかのライブハウスからはスリーマンやらないかと打診されてきたが全員「いや〜」といった反応を示しており引き伸ばしてきた結果一切交わらなくなった我々。それはそれでもちろんよくて、無理にやるもんではないし年に一回ほど対バンしてしっかり見せつけられ背筋が伸び痺れ互いの現状を確認しじゃあまた。それを繰り返しているうちに3バンドとも内情が目まぐるしく変わっていった。FATE BOXとHue'sは似たようなタイミングでメンバーが変わり、曲やライブの仕方も似たような変化があった。やってることはもちろん違うれけど。その中でblondyはとてつもない爆音を出す人が1人増えた。旧知の仲ということはもちろんあるが誰1人欠けることなく互いに認め合える関係にようやくなれた。
FATE BOX
かつて持っていたパンキッシュな部分を通り越えてハードコアまで走り抜けたかと思えばクラシカルでオールドスクールに振り切ったり、その幅を見ていて安易にブチ上がってしまう。俺がFATEにおいて最も好きな部分を言うと何をやっていても統一された品があるところ。曲そのものへのリスペクトを感じられず下品に見えるバンドが俺は嫌い。曲や音楽への奉仕をせずに何をするというのか。FATEの持つ品性はどこから来ているのか何年も不明だったがちょうど1年前くらいにカズと三角公園で飲んでいた時に尋ねてみたら全部腑に落ちた。「ジャム、ポールウェラーとかの、モッズなんすよねぇ」ビビッときた。そういえばFATEとよく一緒にやっていた時にみずやんが「カズのあの感じ、ウィルコジョンソンやな」と言っていたのを思い出した。ポールやウィルコでもあれば、ジョーストラマーの瞬間も見える。ビリージョーアームストロングというよりもモッズで初期パンな香りの方がしっくりくる。そんな彼とずっと一緒にやってるよこせとは音楽やスタンスの話を一切したことないが、信頼感というか"こいつは裏切らないやつ"のようなものが滲むどころから溢れている。もちろん彼の人柄からきているものであるし、打ち上げでどこまでも突破していく切込隊長な速度感は爽快他ない。ナイスガイ。けいととも深くは話したことないがいつの日か、俺がよく着ている太陽と戦慄のTシャツを見て「キングクリムゾンで1番好きなアルバム!」と突っ込んできてくれたことがある。キュートな笑顔とは裏腹にがっつり入ったタトゥーがイケている彼のドラムはどこか少し根来真嗣に近いような気がしている。取り方は違うけど打点の捉え方が。その2つの何が違うかは言語化困難である...。そしてギターBob Nylon、初対面は彼が前やっていたバンドとの対バン、終演後に有り得ないほどの腰の低さで声をかけてくれて、俺のギターについて本当に隅から隅まで質問を投げかけてくれた。その時は「なんかすごいニッチで良いヤツがいるもんやなぁ」としか思ってなかったけど、今となってはFATEメンバーの中で1番頻繁に会っている。まさかボブが、そしてけいとがFATE BOXになるなんて思ってもいなかったが、4人が溶け落ちていき見たことないベクトルのバンドになっていったのが何よりも最高である。人の範疇を超えてこそ とFATE BOX、そしてカズを見るたびに思う。
blondy
高野、あかね、大地、俺の生に最初からいるような存在。かつてはよく飯も食いに行ったし家に泊まりにいったし一瞬バンドもやった。高野がベースで大地ドラムの鉄壁リズム隊を捨ててベースをギターに持ち替えblondyが始まった時は流石に驚いた。2人のずば抜けた器用さと音楽に対しての真摯っぷりは並大抵の人では到達できないレベル。さらに、数々のサポートベースを飛び越えそこに飛び込んだあかねの腹を括りきったであろう侍のようなベース。いつ見ても、好きな風呂屋の大浴場に浸かっている時のような安堵や体が解れていく感覚がblondyのライブにはある。高野のあまりにも丁寧すぎるコードワークの組み立て方、そこへ更に視覚を具体的にしたり、より抽象的に表現するためのコーラス群。壊す時は徹底的に壊しにかかるファズギター。そんな高野の通訳かのように曲が持つ意思を削がぬよう展開を創り上げていく大地はエンジンを全開にしたりニュートラルで進んだり、まずそもそもドラマーとして見ていてワクワクするし痺れる。呼吸が生きているドラム。10年以上共にやってきた2人でしか産めないものが確かにある。あまりに2人の会話や進め方が抽象的すぎて理解に時間がかかるといつの日かのあかねは悩んでいたけど、自分の精神がどれだけ劣悪であろうとblondyに存在する己の意味を何がなんでも死守し、歪んでるのに優しいベースを堂々と弾き続けているあかねにも目を見張るものがある。最初は何を考えてるかわからない空気を纏った不思議な人だったが、あちらから何度も壁を壊しにきてくれて色んなモノの見方が俺とほとんど一緒だということを知り今となっては本当に頼りになるというか助かる人でしかない。定期的に突然連絡をくれて、話して、互いに抽象に塗れた話ばかりして不思議と心を軽くしてくれる貴重な存在。そういう鉄壁の3人が長らく羨ましく、好きでたまらなかったが突如として現れたリードギターえびちゃん。FATE BOX同様に初の4人体制のライブは対バンでご一緒させてもらったが、今でもよく覚えている。ゴジラのように全てを薙ぎ倒していく爆音すぎるギター。いや、あれはギターだったのか?と思うほどに無慈悲な音だった。これはblondyどうなるんやと一時は恐怖すら覚えたけれど見るたび制御:抑制:暴発のバランスが着々と整えられていき、今はもう居なくてはならない存在になっている。使う音色や機材は俺と似ている部分が多いけど、きっとえびちゃんの機材をまんま俺が使ってもああいう音は出せんことでしょう。当たり前だが。プレイも人もあまりに不思議で未だに彼を掴めていないけど悪いやつじゃない。良いやつ。
この3バンドで今やる意味を記そうと書いてみたけど、それ以上のものが無数に溢れてしまった。取り置きシステムでしか受け付けないチケットに抵抗があったり、1人で知らないライブハウスに行くことにあと一歩が及ばないのであればなんでも聞いてください。どこからでも。火影の入り口は大変暗闇で更に地下へと行かなければなりませんがそれさえ突破していただければ全員がフラットでいれる空間があるので。実家に久々に帰るような感覚で間違いないよ!